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起業前に知っておきたい手続きのこと(個人事業で起業編)

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起業するにあたっては、いくつかの手続きが必要です。
法律上求められていることだけでなく、実務上必要なこともたくさんあって全てを把握するのは大変です。そこで、個人事業主として起業される場合の事前知識として、一般的に必要だと考えられる手続きについてご紹介いたします。

法人を設立して起業される方は「起業前に知っておきたい手続きのこと(法人設立で起業編)」をご参照ください。

※内容に関しては記述時点のものであり、法改正などで内容が古くなることがあります点をご了承ください。

 

1.個人事業主の開業手続き
個人事業主として開業手続きをするためには事業所を所管する税務署と都道府県税事務所で手続きが必要です。
必要な書類は税務署や都道府県税事務所に全てありますので、予め用意する必要はありません。
手続きにあたっては、印鑑と個人番号(マイナンバー)が分かるもの(マイナンバーカードやマイナンバーの通知カードなど)を忘れずに持って行ってください。

税務署での手続き
個人事業の開業・廃業等届出書(いわゆる開業届)を開業から1か月以内に事業所を所管する税務署に提出します。
個人事業の開業・廃業等届出書の提出が事業を行っているという正式なエビデンスになります。
事業をやっている中でなんらかの手続きをする際に開業届のコピーを提出するよう求められることもありますので、控えは大事に保管しておきましょう。

さらに、青色申告にされる方は同時に所得税の青色申告承認申請書も提出する必要があります。「青色申告にしたい」と言わないと申請書をもらえずに、自動的に白色申告となる可能性があります。
青色申告は、所得から65万円が控除される、併せて青色事業専従者給与に関する届出書を提出していれば、家族の給与も経費として認められるといったいくつかのメリットがあります。

ちなみに、白色申告は確定申告に関する手続きが青色申告に比較して簡単というメリットがありますが、一般的な会計ソフトを使用すれば青色申告でも簡単に申告書類を作成できますので、メリットを考慮すると青色申告にすることをお勧めします。

税務署で開業届をもらう際に「青色申告にしたい」と言えば、「家族を従業員として給与を払いますか?」といった質問があって、必要な書類をその場でもらえるはずですので、書類名を覚えていなくても大丈夫です。
開業届を提出するタイミングで、必要な書類を全て記入して提出してしまいましょう。

文章を読むとややこしく感じるかもしれませんが、手続き自体は10分もかからず終わるはずです。

都道府県税事務所での手続き
事業所を所管する都道府県税事務所に事業開始・変更・廃止申告書を提出する必要があります。

 

2.保険・年金の手続き
社会保険の手続きは事業所を所管する年金事務所で手続きを行います。
個人事業主が加入するのは国民健康保険、国民年金になります。なお、社会保険は、会社員であれば、支払額の半分を会社が負担してくれていたのですが、事業主になった場合は全額自身で支払う必要があります。
もし起業するにあたって会社を退職された場合、以下の3つの選択肢があります。
①国民健康保険
②任意継続
③家族の健康保険の扶養

①国民健康保険
国民健康保険は月単位での加入になりますので、月の末日以外で退職をした場合は当月の分の支払い義務が発生しますのでご注意ください。
例えば、3月31日付けて退職をした場合は4月1日からの加入になりますが、3月1日~30日付けで退職した場合は3月からの加入が求められます。

国民健康保険料は前年度の収入や扶養家族の人数といった様々な条件で決まります。また、自治体独自の減免などもありますので、具体的な金額は市区町村役場で確認してください。

②任意継続
退職日の前日までに2カ月以上の被保険者期間があれば、退職後の2年間は健康保険が継続できる任意継続保険者になることができます。
国民健康保険と比較して安い方を選ぶことも可能です。
希望する場合は、住所地を管轄する協会けんぽの支部に退職した日の翌日から20日以内に手続きを行う必要があります。
ただし、雇用されている訳ではありませんので、保険金は全額自己負担になります。

任意継続について不明な点や手続きについては協会けんぽの支部にお問い合わせください。

③家族の保険・年金の手続き
ご自身が世帯主の場合は、扶養する家族の分も手続が必要になりますので、忘れないようにしてください。

さらに従業員を雇用する場合は雇用保険、労災保険、医療保険といった保険への加入が必要です。条件によって必要な保険が異なり、加入の手続きを行う場所もそれぞれ異なりますので、あらかじめ社会保険労務士にご相談されることをお勧めいたします。

 

3.銀行口座の開設
個人事業における銀行口座はすでに開設されているものでも構いませんが、あらたに事業専用の口座を開設される場合は、いずれの金融機関も事業所の最寄りの支店、あるいは本店での開設が求められるケースが多いでしょう。

また、屋号付きの口座(屋号+姓名)が開設できる金融機関もありますので、金融機関にご確認ください。その場合は事業をやっているエビデンスとして開業届のコピーや屋号が確認できる資料(領収書や契約書など)が求められます。
なお、事業用の口座は個人用の口座とは異なり審査があり、申し込み当日に開設されませんので、ご留意ください。

屋号付きの口座であれば、個人名義の口座よりも信用が高くなる可能性がありますが、金融機関によってはネットバンキングも有料になる可能性もあります。詳細は各金融機関にご確認ください。

また、ネット銀行という選択肢もあります。
ネットバンキングが無料で、かつ振込手数料が一般的な金融機関と比較して安いのが特徴です。また、審査期間も1週間程度と、一般的な金融機関よりも早いです。しかし、Pay-easyに対応しておらず、税金や公共料金の支払いができないネット銀行も多くあります。そういった場合は、適宜近くの金融機関やコンビニなどで支払いをする必要があります。

 

4.クレジットカード
個人のクレジットカードをそのまま使用することは可能ですが、事業用のクレジットカードを新たに作る方が管理は容易になるでしょう。
その場合、ビジネス用の特典のついた、いわゆるビジネスカードもありますので、ご検討されてはいかがでしょうか。

審査に関しては各社が審査基準に関する情報を公開していませんが、個人事業主であれば個人の信用情報を中心に審査がなされると考えられます。
返済に遅延がある、同時期に多数のカードの申し込みをしているといった瑕疵があると審査においてマイナスになる可能性があります。

 

5.融資
民間金融機関であれば、融資を受けたい金融機関の口座を開設とセットでの申し込みになるかと思います。

一般的には信用保証協会の審査があり、その後に金融機関の審査があります。
審査期間は申込の条件によって異なりますが、最長で1か月ぐらいはかかる可能性があります。
そのため、支払いや資金繰りについては1か月以上の余裕を持っておいた方が良いでしょう。

日本政策金融公庫で融資を希望される場合は、審査後の振込み時までに別の金融機関で口座を開設している必要があります。ただし、ネット銀行の場合は対応していない可能性がありますので、融資の申し込み時に日本政策金融公庫にご確認ください。
日本政策金融公庫の場合は申し込みから振込みまでに10日前後とアナウンスされていますが、土日や祝日もはさみますので、2週間程度は見ておいた方が良いでしょう。
もちろん、民間の金融機関同様に、申し込み条件によってはさらに長くなる可能性もあります。

 

6.許認可手続き
理・美容業や旅行代理業といった許認可や登録が必要な事業者は必要に応じて手続きが必要です。
許認可の取得要件や必要な手続きは事業によって異なりますので、それぞれの組合や行政機関のWebサイトなどでご確認ください。

 

7.小規模企業共済
開業において必須の手続きではありませんが、個人事業主として開業したら小規模企業共済に加入することが可能です。

小規模企業共済とは、経営者のための退職金の積み立て制度で、月々の掛金は1,000~70,000円まで500円単位で自由に設定が可能でき、確定申告の際は、その全額を課税対象所得から控除できるため、節税効果があります。金融機関であれば申込用紙がありますので、引き落とし口座のある金融機関で申し込み手続きを行ってください。
手続にあたっては開業届の控えが必要になります。

小規模企業共済についての詳細は中小企業基盤整備機構にお問い合わせください。

 

8.インボイス
消費税の適格請求書発行事業者になるためには、別途税務署への申請が必要です。郵送やネットからの申し込みなどいくつかの方法がありますので、詳細は国税庁のWebサイトをご確認ください。
また、インボイス制度自体については同じく国税庁のWebサイトをご確認ください。

 

9.確定申告
起業に関する手続きではありませんが、起業すると必要になるのが確定申告です。個人事業主の場合は会計期間が1月1日から12月31日までと決められており、翌年の2月16日から3月15日の間に確定申告を行う必要があります。

簿記の知識がないと分かりづらいと思いますが、会計ソフトやクラウドサービスを利用すれば、仕訳や申告書類の作成も容易に行えます。
また、有償でカスタマーサーポートが受けられるものもあります。

 

最後に
見慣れない言葉が多くて大変そうに見えるかもしれませんが、ほとんどの手続きは簡単なものばかりです。
これらの手続きを経て個人事業主としての新たな人生のスタートを切ることになります。
事業主として大変なことも多いですが、その分報われることも多いですので、頑張ってください。

 

「起業前に知っておきたい手続きのこと(法人で起業編)」はコチラ

公開日
2023年5月23日
執筆者

待谷 忠孝(まちたに あつよし)

DaS株式会社 代表取締役。中小企業診断士。経営学修士。
1975年大阪府生まれ。Webデザイナーとして大小様々な企業のWeb制作・企画に携わった後、経営コンサルタントとして独立。
経営者様の毎日の努力が少しでも報われるように、企業の価値を創る、価値を伝えるための経営におけるデザインの全体最適化の支援をしている。
著書「中小企業が成長するためのデザイン戦略」(三恵社)