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起業前に知っておきたい手続きのこと(法人で起業編)

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起業するにあたっては、いくつかの手続きが必要です。
法律上求められていることだけでなく、実務上必要なこともたくさんあって全てを把握するのは大変です。そこで、法人設立をして起業される場合の事前知識として、一般的に必要だと考えられる手続きについてご紹介いたします。

個人事業主として起業される方は「起業前に知っておきたい手続きのこと(個人事業主で起業編)」をご参照ください。

※内容に関しては記述時点のものであり、法改正などで内容が古くなることがあります点をご了承ください。

 

1.設立登記
法人は種類を問わず、設立の登記が必要です。

会社のルールとなる定款を始めとした様々な書類を作成する必要があります。登記に係る一連の作業について、司法書士に依頼するのが一般的かつ一番簡単です。しかし、手間をかけても良いから少しでも費用を抑えようと思う方は、インターネット上では必要な書類を自分で作成できるサービスや無料でダウンロードできるひな形を利用するという方法もあります。
その上で都道府県や市町村が運営している公的機関であれば、専門家のアドバイスを無料で受けることができますので、ご利用されてはいかがでしょうか。

さて、登記に際して、自宅マンションやアパートを本店所在地とする場合は、注意が必要です。賃貸マンションやアパートは、本店所在地として登記することを禁止している場合がありますので、確認してください。
もし、自宅での登記が難しいのであれば、登記ができる物件を借りるか、あるいは登記が可能なバーチャルオフィスの利用も一つの方法です。

資本金の準備もこの時に行います。発起人となる個人の口座を定款に記載する資本金と同額にして、預け入れの証拠として通帳のコピーを取ります。なお、この口座が法人の口座として使用される訳ではありませんので、法人の口座が必要であれば、別途法人口座の開設をする必要があります。
そして、登記の申請をした日が法人の設立日となります。そのため、法務局が休業している土日祝日と年末年始は設立日にすることができません。

 

2.印鑑作成
設立登記や銀行口座の開設の手続きにあたって印鑑が必要になりますので、設立登記の準備に合わせて印鑑も作成しましょう。必ず必要になるのは会社実印(丸印)、銀行印で、前者は設立登記時に必要となり、後者は銀行口座開設の際に必要となります。また、角印も法的効力が認められるものではありませんが、一般的に使用されるものですので、併せて作られるケースが多いです。
もし、設立登記を司法書士に依頼した場合は、どのタイミングで印鑑を作れば良いか確認してください。

 

3.保険・年金の手続き
法人を設立したら一人会社(従業員がいない会社)でも社会保険への加入が義務付けられています。健康保険と厚生年金への加入は、会社設立から5日以内に会社の所在地を所管する年金事務所で手続きを行います。
保険料は、役員報酬額に応じて変わります。会社員であれば、支払額の半分を会社が負担してくれていたのですが、事業主になった場合は全額自身で支払う必要があります。そう言った点も考慮して報酬額を決めてください。

さらに従業員を雇用する場合は、雇用保険、労災保険、医療保険といった保険への加入が必要です。条件によって必要な保険が異なり、加入の手続きを行う場所もそれぞれ異なりますので、あらかじめ社会保険労務士にご相談することをお勧めいたします。

 

4.履歴事項証明書の取得
法人の存在を証明するための書類として、履歴事項証明書の提出が必要になる場面があります。
法人登記から1週間ぐらいで取得できるようになりますので、法務局に行って取得するか、法務局のWebサイトからオンラインで請求してください。

法人設立後は度々、履歴事項証明書を提出する機会がありますが、その際は3か月以内に取得したものを求められるのが一般的ですので、必要に応じて都度取得するようにしてください。

 

5.法人の設立届
法人として開業手続きをするためには事業所を所管する税務署と都道府県税事務所で手続きが必要です。
必要な書類は税務署や都道府県税事務所に全てありますので、予め用意する必要はありません。また、必要ですので印鑑(会社実印)と法人番号が分かるものを忘れずに持って行ってください。
なお、法人番号は国税庁の法人番号公表サイトで調べることもできます。

税務署での手続き
法人設立から2か月以内に法人設立届出書を、履歴事項証明書(写し)定款(写し)株主名簿(写し)設立時の貸借対照表を添えて提出します。さらに現物出資がある場合は出資者の氏名・出資財産と金額を記載した書類も提出が必要です。

その他、税務署に以下の書類を提出します。
実際には、税務署で書類をもらってその場で記入して提出することになります。
● 法人税の青色申告の承認申請書
● 給与支払事務所等の開設届出書
● 棚卸資産の評価方法の届出書
● 減価償却資産の償却方法の届出書

都道府県税事務所での手続き
都道府県税事務所と市町村役場にもそれぞれ法人設立届出書履歴事項証明書(写し)定款(写し)を提出します。

 

6.銀行口座の開設
履歴事項全部証明書が取得できるようになると、法人として新たに銀行口座の開設手続ができるようになります。
基本的にいずれの金融機関も事業所の最寄りの支店、あるいは本店での口座開設を求められるケースが多いでしょう。

メガバンク(都市銀行)は、設立したばかりの企業では審査を通過しづらく、地方銀行、信用金庫、信用組合の方が比較的審査を通過しやすいようです。
銀行側の都合もあるでしょうが、マネーロンダリングやテロリストへの資金提供に対して目を光らせているため、メガバンクは事業実態がない、あるいは不明瞭な企業の口座開設には慎重になっているといった理由もあるようです。
なお、審査には概ね2週間程度かかるのが一般的です。

ネットバンキングに関して、個人であれば無料ですが、法人口座は有料のところがほとんどですし、振込手数料も高額になります。銀行を選ぶ際の参考にしてください。

また、ネット銀行という選択肢もあります。
ネットバンキングが無料で、かつ振込手数料が一般的な金融機関と比較して安いのが特徴です。また、審査期間も1週間程度と、一般的な金融機関よりも早いです。しかし、Pay-easyに対応しておらず、税金や公共料金の支払いができないネット銀行も多くあります。そういった場合は、適宜近くの金融機関やコンビニなどで支払いをする必要があります。

 

7.法人用のクレジットカード
法人設立をするとクレジットカード会社からDMが多数送付されてくるでしょう。法人用のクレジットカードは個人用のものとは異なり、事業にプラスになる特典が多数付帯しています。
グレードの高いカードは、付帯特典のグレード、ポイントの倍率、保証金額などが高いといったメリットがありますが、その分の年会費も高くなります。
法人設立時は審査に通りやすいようですが、自身の事業に鑑みて年会費に見合うのかどうかをご検討ください。

 

8.融資
民間金融機関であれば、融資を受けたい金融機関の口座の開設とセットでの申し込みを行うことになると思います。
一般的には信用保証協会の審査があり、その後に金融機関の審査があります。審査期間は申込の条件によって異なりますが、最長で1か月ぐらいはかかる可能性があります。

日本政策金融公庫で融資を希望される場合は、審査後の振込み時までに別の金融機関で口座を開設している必要があります。
ただし、ネット銀行の場合は対応していない可能性がありますので、融資の申し込み時に日本政策金融公庫にご確認ください。
日本政策金融公庫の場合は申し込みから振込みまでに10日前後とアナウンスされていますが、土日や祝日もはさみますので、申し込みから2週間程度は見ておいた方が良いでしょう。
もちろん、民間の金融機関同様に、申し込み条件によってはさらに長くなる可能性もあります。

いずれにしても、法人の場合は設立登記から履歴事項全部証明書の取得、口座開設申請から開設までに数週間から1か月程度は必要なため、設備投資の支払いや資金繰りについては2か月以上の余裕を持っておいた方が良いでしょう。

 

9.許認可手続き
理・美容業や旅行代理業といった許認可や登録が必要な事業者は必要に応じて手続きが必要です。
許認可の取得要件や必要な手続きは事業によって異なりますので、それぞれの組合や行政機関のWebサイトなどでご確認ください。

 

10.Webサイト
.co.jpのドメインは日本国内で登記された株式会社、合同会社といった営利法人、組合でないと取得ができません。
しかし、一般的に法人設立前の6か月前から取得することは可能です。予めドメインを仮登録として取得する、あるいはWeb制作会社にWebサイト制作依頼と共にドメイン取得を依頼することが可能で、法人設立後に本登録をすることになります。

 

11.小規模企業共済
開業において必須の手続きではありませんが、小規模企業(製造業であれば従業員が20名以下、それ以外は5名以下)の経営者であれば、小規模企業共済に加入することが可能です。
小規模企業共済とは、経営者のための退職金の積み立て制度で、月々の掛金は1,000~70,000円まで500円単位で自由に設定が可能でき、確定申告の際は、その全額を課税対象所得から控除できるため、節税効果があります。金融機関であれば申込用紙がありますので、引き落とし口座のある金融機関で申し込み手続きを行ってください。
小規模企業共済についての詳細は中小企業基盤整備機構にお問い合わせください。

 

12.インボイス
消費税の適格請求書発行事業者になるためには、別途税務署への申請が必要です。
郵送やネットからの申し込みなど、いくつかの方法がありますので、詳細は国税庁のWebサイトをご確認ください。
なお、手続の用紙は開業の手続きで税務署に提出した書類と同じようなもので、ご自身で記入できるような簡単な内容です。
また、インボイス制度自体については同じく国税庁のWebサイトをご確認ください。

 

13.決算
設立時に定めた決算日から2か月以内に決算をする必要があり、必要な処理と手続きを税理士に依頼するのが一般的です。
法人を設立すると多くの税理士事務所からDMが送られてくるでしょう。設立時に税理士と契約をする必要はありませんが、直前になって探すよりも余裕を持って選んでおくことをお勧めします。
特に12月から翌年の5月ぐらいが税理士にとって繁忙期になりますので、それ以外の時期に決算や日常の仕訳作業について相談しておくのも良いでしょう。
仕訳が多くないうちは、日常に仕訳はご自身で行い、決算だけを依頼することで税理士費用の削減になりますし、会計の基本的な知識も身につきます。

 

最後に
法人設立は個人事業主の開業よりも、やることが多いですが、これらの手続きを経て法人の代表としての新たな人生のスタートを切ることになります。
経営者として事業を行うにあたって大変なことも多いですが、その分報われることも多いですので、頑張ってください。

 

『起業前に知っておきたい手続きのこと(個人事業で起業編)』はコチラ

公開日
2023年5月23日
執筆者

待谷 忠孝(まちたに あつよし)

DaS株式会社 代表取締役。中小企業診断士。経営学修士。
1975年大阪府生まれ。Webデザイナーとして大小様々な企業のWeb制作・企画に携わった後、経営コンサルタントとして独立。
経営者様の毎日の努力が少しでも報われるように、企業の価値を創る、価値を伝えるための経営におけるデザインの全体最適化の支援をしている。
著書「中小企業が成長するためのデザイン戦略」(三恵社)